セルアニメ彩色デジタルアーカイブ ~国産アニメーションの色を記録する取り組み~

Takahashi / 高橋
執筆者: Takahashi / 高橋
セルアニメ彩色デジタルアーカイブ ~国産アニメーションの色を記録する取り組み~

日本の伝統的なセルアニメーションの彩色技術は、仕上げ工程のデジタル化に伴い、急速に失われました。この記事では、貴重なセルアニメの彩色資料をデジタルデータで保存するという独自のプロジェクトと、その現状について紹介します。

プロジェクトの経緯

2022年6月、有限会社六方は、佐々木尚子氏へインタビューを実施しました。佐々木さんは、アニメーションの作画・仕上げ工程を担っている有限会社Wishの元代表で、国産アニメの彩色工程を支えた生き字引です。佐々木さんへの取材の過程で、1979年以降のセルアニメーション作品にまつわる多数の中間制作物や関連資料の存在が明らかになりました。

これらは大変貴重な資料であり、六方が責任を持ってアーカイブに取り組みたい旨をご相談したところ、佐々木さんのご厚意により本プロジェクトが始まりました。

デジタルアーカイブの意義

日本の国土は厳しい自然環境にあるため、国内の歴史資料は常に散逸・消失するリスクを抱えています。運よく発見され適切に保管されている資料も、物理的な劣化や紛失の懸念から、本来の保存目的である利活用がなかなか進まないというジレンマがあります。

そこで行われる対策が「デジタルアーカイブ」です。重要な文書や芸術作品を、高精度なデジタルデータとして複製し、正しいメタデータとともに整備します。これにより、将来世代への記録の継承を担保しながら、広範囲にわたるアクセスを可能にします。

“色”を記録するという挑戦

セルアニメの中間制作物の保存は増えていますが、色彩に関する資料のデジタルアーカイブは非常に稀です。なぜなら、現実の色をデジタル空間に忠実に再現するためには、専門的な知識と機材が必要だからです。

六方は、ビデオゲーム開発を通じて培った高度なデジタル処理とカラーマネジメントの知識を有しており、この課題に取り組むことができました。

プロジェクトの目的と対象

このプロジェクトの主な目的は、国産のセル絵具とそれを使用した作品の色彩設計を記録し、将来的な研究や作品制作に役立てることです。また、この取り組み自体もアーカイブし、有用なデジタルアーカイブの参考事例になることを目指します。

最初のアーカイブ対象は、Wish社が保管していた「国産セル絵具の色見本 約800点」と「作品別カラーチャート 約120点」です。これらは保存状態が良好な上、バインダーで整理されていて散逸の恐れが少なく、権利関係の調査や許諾が不要だという点で、アーカイブに適していました。

現在の進捗状況

2022年秋にWish社承諾のもと、これらの資料をデジタル撮影し、2023年春に色見本のデータベース化を完了しました。すべての色番号は均等色空間にマッピングされています。撮影とデータ化の具体的な手法については、別途詳細なレポートを執筆する予定です。

アニメ産業の歴史的・文化的な資料の価値を最大限に活かすべく、データベースの外部公開に向けて、関係各所と調整のうえ慎重に準備を進めています。どうぞご期待ください。

結びに

このプロジェクトの成果物は、アニメーションの歴史や技術に関心を持つ人々にとって、貴重なリソースとなります。さらに、これらの資料はアニメーションの修復や新作品の制作においても重要な役割を果たします。日本のアニメ産業の歴史的価値を未来に伝えると共に、新たな創造の源泉となることが期待されます。

このプロジェクトによって、これまで着目されることの少なかったアニメーションの「色」を塗る人々に光があてられることを、また、そのデジタルアーカイブの重要性と可能性が広く認識されることを切に願います。そして、アニメ産業のさらなる進歩と発展に貢献できれば幸いです。

アーカイブ実施を快諾いただいた佐々木さんと有限会社Wishに心より感謝申し上げます。プロジェクトの完遂に向けて引き続き努力を続けてまいります。

問い合わせ先

この取り組みに関する詳細やご質問は、有限会社六方(mail@loppo.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。

Takahashi / 高橋

Takahashi / 高橋

有限会社六方の代表。歌舞伎とカートゥーンが好物。もとはゲームプログラマーだったが、最近は開発も対外的なこともほとんどBohfula氏に押し付けて、ただの絵具製造マシンと化している